2024年度つくりかけラボ15 「齋藤名穂 空間をあむ 手ざわりハンティング」 関連トークイベントの報告です。
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2024年9月14日(土)の午後、「つくりかけラボ」で「なおさんとおしゃべりしましょ!Let’s chat with Nao-san!」が開催されました。当日は約10名が参加し、長野県伊那文化会館の美術館学芸員・木内真由美さんをゲストに迎え、齋藤名穂さん、このプロジェクト担当の山下学芸員の3人を中心に、リラックスした雰囲気でおしゃべりが進みました。
トークをしながら、齋藤名穂さんが制作した、手で触れて素材の違いを感じられる「さわるツール」を手に取りながらの参加者との意見交換も行われました。
齋藤さんはラボに通うこの3ヶ月半で、ある気づきを得たそうです。当初、オープンワークショップでは来場者に様々な素材を使ってもらう予定でしたが、最終的には最初に使ったクラフト紙1種類に絞ることにしました。その理由は、たった1種類の素材でも、一人ひとりが異なる手ざわりを生み出していたからです。壁につけられた作品を見て刺激を受け、自分なりの工夫を凝らしながら、集中して制作に取り組んでいました。ここでは多様な手ざわりが表現され、豊かな世界が広がっていったと、齋藤さんは感じたそうです。
また印象的だったのは、「地図」についての考えでした。山下学芸員から、なぜ齋藤さんは今回のラボを地図という形にしたのでしょうか、と尋ねられると、このような答えが返ってきました。
「絵本と地図は、私にとって一番大きな、これからも大切にしていきたいものです。地図とは、人がいく通りもの行き方を思い描けるもの。ある人はAからB、Cと行くし、またある人は違う点を通って行く。地図は一枚の絵のようなものですが、その中でもお話が何十通りもあって、それが一つの一筆書きのような物語なのではないかと、いつも思って地図を作っています。建物の場所や見た作品の場所、そこにある手ざわりをマッピングしていきたくて、今回地図という形が自然かなと思いました。」
続いて、木内さんと齋藤さんが一緒に作った長野県立美術館の《たてものキューブ》を実際に参加者に手渡しながらお話が進んでいきました。木内さんからは2021年の長野県立美術館新築の際のお話を伺いました。長野県信濃美術館の後に新美術館を作る際、明確に「外にひらく美術館」を目指し、インクルーシブプロジェクト(すべての人が参加できるよう配慮されたプロジェクト)を立ち上げられました。その際、教育普及にも力を入れ、訪れる人々が美術館やその建物に興味を持てるような工夫のひとつとしてこのキューブを制作することとなったそうです。美術館を多くの人に身近に感じてもらいたいという思いがあり、作品だけでなく、展示室の壁や各部屋で足ざわり(足で感じる感触)が異なる床の違いなどが楽しめる美術館になっているというお話でした。
今回はトーク参加者の中に、盲導犬を連れた視覚障害の方もいらっしゃいました。視覚に障害のある方がどのように日常を感じ取っているのかという話題にも広がり、参加者同士が疑問に思っていたことを問いかける時間がありました。お互いに質問をし合い、ゲストと参加者が意見交換できる場となりました。
(つくラボ運営担当 樽谷孝子)