吉田博(1876-1950)は久留米市の生まれ。京都での洋画修業中に三宅克己と出会い、その水彩画に感銘を受けて上京を決め、不同舎に入門。明治32年(1899)渡米、自作の展観と販売を成功させて欧州各国も訪れ、以後外遊を繰り返した。太平洋画会と文展で活躍するかたわら大正9年(1920)から版元・渡邊庄三郎と組んで木版画を制作、震災後は自ら彫師・摺師を抱える私家版を手がけて軸足を木版画に移した。風景、とりわけ山岳を愛し、国内外を広く旅した成果を250点もの木版画に結実させている。

《光る海》は、吉田博の海景を代表するシリーズ「瀬戸内海集」の第一作であり、ダイアナ元妃が執務室の壁にかけていたことでも知られる作品。タイトルのとおり、浮かぶ帆船よりも海面そのものに焦点をあて、丸ノミの跡できらめきを巧みに表す。陽の傾く頃の光線の具合や水面の揺らぎ、海風までもをありありと想像させるリアルさと、木版画ならではの造形を融合させた優品である。