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つくりかけラボ17井上尚子アーティストトークイベント「匂いの記憶と音による空間<記憶の標本室>をめぐって」を開催しました。

2025.9.30 つくりかけラボ

2025年度つくりかけラボ17 「井上尚子 記憶の標本室」 関連トークイベントの報告です。
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2025年32日(日)午後、美術館4階のつくりかけラボで、トークイベント「匂いの記憶と音による空間<記憶の標本室>をめぐって」が行われました。
会場に集まったのは、アーティストの井上尚子さん、音楽制作を担当した「ベジタブルレコード(Vegetable Record)」の林翔太郎さんと三上僚太さん、そして担当の山根学芸員。音や匂いに囲まれながら、和やかな雰囲気でトークが繰り広げられました。

左から担当学芸員、井上さん、Vegetable Recordの林さんと三上さん。

まずは担当から、

今回ほどしっかりと事前から準備をして2組のアーティストが一緒に空間を作っていったことは、つくりかけラボでもあまりないかもしれません

とのお話しが。井上さんとベジタブルレコードさんのお二人は、以前横浜の展示で出会い、お互いの活動や作品にすっかり惹かれたのだとか。井上さんは「いつか一緒にやりたい」と温め続けていた思いが、今回ついに実現したのだそうです。

事前打ち合わせでは、井上さんにとって印象的だった匂いのひとつ、展示の重要なモチーフとなる「ベジマイト」が出てきます。

ベジマイトとは、オーストラリアの発酵調味料。井上さんからは来場者に「この匂いを嗅いでみていかがでしたか?」と問いかけられ、無言で首を振る方から、「ナッツみたいな匂い」「初めての香り!」と声があがる方もいましたが、林さんは「鼻をつんざくような嫌な匂いでした」と笑顔でコメント。
このプロジェクトでは井上さんが「匂いの体験を音であらわせますか?」とお二人にお願いをし、できあがったものの1つが『ベジマイト』という曲。トークの途中でその楽曲が流れ、ゲストも来場者も一緒に静かに聴き入りました。
曲の中ではシンセサイザーの音が特徴的につかわれていて、林さんからは「ベジマイトのパッケージもポップな感じだったので、明るい音も入れながら架空のベジマイトのCMソングを作った感じです」とのお話も。
この曲、展示室では小さなガラス瓶の中のスピーカーに収められています。

ベジマイトとスピーカー

開けると匂いが香ってくるように、音楽も開けると聞こえてきます。匂いと一緒に音も聞いてもらえると嬉しいです

とは林さん。“音を嗅ぐような、不思議で楽しい体験ができるようになっています。

井上さんはこう話されていました。

可視化できないにおいと音を、どうやって空間に落とし込んでいくのかということが課題で、次のお楽しみになっていきました。空間とコンセプトをお互いに共有した上で様々なアイディアを出し合いながら、今回の展示が作られていきました。

また、ラボの展示の仕組みについても次のようにお話しされました。

ウォームアップで匂いを言語化し、好みの判断をつけます。そうすると匂いに集中できるので、そのことで記憶を回想するスイッチが入り、昔の記憶がよみがえるスイッチが点くのです。

私たちは、2組のアーティストによる様々な隠された仕組みによって、音と匂いを楽しみながら、自然と自分の記憶をたどることに集中する、という不思議な体験をしていることに驚きます。匂いと音が交わるこの記憶の標本室
それは、五感のドアを開けてくれる、魔法のような空間でした。

トークの後、質問される方も。

トークの後、KUNKUN RADIOの収録をしました。

終了したつくりかけラボプロジェクトの詳しい内容は報告書で読むことができます。

報告書は、美術館1階のミュージアムショップ”Batica” でお買い求めいただけます(¥200)。PDF版はこちら

>終了した本プロジェクトのホームページはこちら

 >会期中、ゲストと井上さんがトークを繰り広げた全11回に及ぶKUNKUN RADIOはこちら

(つくラボ運営担当 樽谷孝子)

 

 

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