つくりかけラボ関連イベント

「つくりかけラボ03 武藤亜希子|C+H+I+B+A ARTシェアばたけ」 関連トーク

2021年7月18日[日]

開催日時

2021年7月18日[日](非公開)

参加者

武藤亜希子(現代美術家)

加藤 甫(写真家)

進行

畑井恵(千葉市美術館学芸員)

構成・文

木村和博

 

素材を集めるプロセスそこで生まれる関係や行為も素材

畑井 コンセプトである「シェアばたけ」が生まれた背景について、お伺いしてもいいでしょうか。

武藤 私は船橋出身で、今も、千葉近郊に住んでいて、地元という感覚がありました。この地域のことを中途半端に知ってしまっていることの難しさを感じていたので、千葉という地域についてあらためて調べたんです。そこで農作物の直売所やJAが身近な存在だと気づいて。さらに自分の記憶を辿っていくと、おじいちゃんおばあちゃんの代までは、船橋で農家をやっていたのを思い出しました。子どもの頃「ナスをとってきて」と言われて取りに行くとか、なんかそういう感じが当たり前のようにありました。お芋掘りも家の畑で出来るので友達を呼んでやったりとか、「家にある苺を食べたい」という理由で、そこまで仲がいいわけではない同級生に「一緒に帰りたい」と言われたり(笑)。そういうところからコンセプトに近づいていきました。

畑井 今回は「素材にふれる」というテーマだったのですが、実際に生まれた空間は手で触るだけではなく、身体でふれる体験ができるようになっていました。

武藤 そうですね。ただこれまでの創作と比較したときに素材の選び方が違っています。これまでは、プロジェクトを行う地域やそこで出会う人に協力をお願いしながら、素材を集めていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の状況があり、素材を集めてくるのも難しかった。そのため集めてもらう方法は避け、合皮を素材にして作ることにしました。アルコールで消毒しやすいものを選んだんです。

加藤 作品づくりのプロセスからいつもと違ったのですね。ふと気になったのですが、武藤さんは、なにを「素材」と捉えているのでしょうか。

武藤 作品づくりに参加してくれる行為そのものも素材だと思っています。布や合皮でつくられた具体的なモノだけではなく、それぞれが探して集めてくれる時間も、さまざまな人との関わりの中で生まれている動きも、モノを一緒に作ってもらうことも含まれているのかなと。ただ闇雲に「素材」と呼んでしまうことには、正直ためらいもあるんですが。

畑井 「シェアばたけ」に立ち会って思ったのは、訪れた人がふれて残った跡も素材に含まれているということです。その跡から、思考にもふれることができるというか。訪れた人の経験として、身体的にふれると他者の思考にふれるが同時に起きていた気がします。

 

選択してもらうこと、主体を宙ぶらりんにすること

畑井 会期中には、2種類のワークショップを実施しまし た。いつでも参加できる「きみの実をつくろう」ワークショッ プと、武藤さんと一緒に「シェアばたけ」にくわえる草花や実をつくるアーティストワークショップです。アーティストワークショップは、1日5組限定、1組の人数は2名~3名の範囲で実施しました。

武藤 それがまたいつもとは違う感じでした。いつもであれば、参加者の定員を決めて、そこを基準にワークの内容を具体的にして、人を集めます。今回は、どのくらいの時間 で、何人と出会うのかなど、1組の枠をどうするかという設計から、畑井さんと相談して決めていきました。その結果、 お子さんだけではなく、親御さんと一緒に参加してくれる組が多かったですね。

加藤 親も一緒に創作する状況って珍しいですよね。子どもが参加できるワークショップの場合、親御さんは、そもそも参加できないこともあるので、見守っている場合が多いかなと。

武藤 そういった状況が苦手なんです。今回も、1組だけ、 親御さんが参加しない回がありました。すると、親御さんが 横からお子さんにいろいろ言ってしまって、結果的に全部決めちゃう。私としては、お子さんに選んで欲しいし、やってみて、ちょっと綺麗にできなくても、失敗したと思っても、それはそれでいいと思うんです。だからそれ以降は基本的には親御さんも参加してもらうことにしました。

畑井 ワークショップを実施するにあたり武藤さんが大切にしていることはありますか。

武藤 いろんなところから「選んでもらう」ことです。色とか、柄とか、素材とか、今回でいうと実を1個つくっただけでは終わらずに、組み合わせることができるようにしていて。

畑井 なぜ「選んでもらう」ことを大切にしているのですか。

武藤 なんだろうな、なんか自分の主体を宙ぶらりんにしたいところがあるんです。宙ぶらりんというか、そこちょっと奥深いんですけど……。いろいろな準備はしますし、枠組みも作るし、どんなものが作られるのかイメージはする んですけど、でもそこを通過してくれる方には、自由にしてもらいたくて。 空間と訪れる人を仲介するようなポジションでいたいんで す。なんかそういう空間や時間が実現できたときは、自分の主体がちょっと宙に浮くような感じがあるというか。

加藤 ちょっとわかる気がします。僕も撮影のときに、完全に「僕がこうしたい」というものを撮るんじゃなくて、起こっている事を撮りたい気持ちが強くて。自分の予想をはみ出るものであればあるほど面白いと思うタイプなんです。そうなると場の設計というか、空間のつくる上での視点がすごく重要だなと。

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写真は全て加藤甫

プロフィール
武藤亜希子

現代美術家
1975 年 千葉県生まれ
2006 年 東京藝術大学大学院博士課程満期修了

●主な展示
2014 年「ワンダフル ワールド展」( 東京都現代美術館)
2009,2012,2015 年「越後妻有アートトリエンナーレ大地の芸術祭」(新潟)
2018 年「廃材アート展」(浜田市世界こども美術館, 島根)
2019 年「記憶の中の風景」(千葉市民ギャラリー・いなげ, 千葉)
2019 年「BONTON× 武藤亜希子」(ワークショップ&展示 /高島屋新宿店、日本橋店、玉川店)

●パブリックコレクション
浜田市世界こども美術館(作品名:海の庭H+A+M+A+D+A)

●その他の仕事
NHK Eテレ「いないないばあっ!」
「あそびのくに」(2015 年)
歌「あたらしい いちにち」(2020 年)のセット原案デザイン

http://akikomuto.com

プロフィール
加藤 甫

写真家

1984年神奈川県生まれ。

美学校写真工房修了。
写真家西村陽一郎氏に師事。
独立前より各地のアートプロジェクトやアーティストインレジデンスの撮影を住み込みで行う。

現在は様々な媒体での撮影やアートプロジェクトのドキュメント撮影のほか、プロジェクトに長期間伴走・協働する撮影プロジェクトや記録や行為を活用した新たなコミュニケーションや場づくりを模索している。

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